■編集・発行 東京大学生産技術研究所 / 広報室
IIS NEWS
No.191 2021.10
●人間・社会系部門 教授
芳村 圭
IIS TODAY
今号の表紙を飾っていただいたのは、人間・社会系部 門の芳村圭教授です。芳村先生は、水の同位体比を主な 手がかりにした高精度な大気大循環モデルを構築してい ます。修士の頃に質量分析計に出会い、一見同じような 水が、出自の違いで多様な値を示すことにハマったとい います。以来、観測とモデルの水同位体比をデータ同化 して、 精度を向上させる研究を進めてきました。最近では、 リモートセンシング技術から、これまで観測できなかっ た対流圏中層の水蒸気同位体比を得られるようになった そうです。芳村先生と並ぶデジタル地球儀には、 そのデー タが映し出されています。 モデルの進化は気象予測の精度を高めます。集中豪雨 や洪水の頻発など、昨今高まる災害リスクに対して、そ の軽減や備えに間違いなく役立ちます。しかし、芳村先 生を駆り立てるのは、必ずしも「役立つ」という理由で
はありません。むしろ、遠い過去を知りたいというロマ ンだそうです。 全球のモデルが未来を予測できる確信は、過去をきち んと復元できる実証から生まれます。そして、過去数万 年の気象を復元するには、水同位体比が切り札だといい ます。過去についてほぼ唯一得られる観測値は、アイス コアなどに眠る過去の水の同位体比だからです。そのわ ずかな手がかりから、過去の気象の全貌を知る。芳村先 生の手にする地球には、未来の気象のみならず、これま での気象の記憶が再現されようとしているのです。 一見役に立たない過去の探究が、未来の地球の確かな 予測へとつながり、そこから、いま何をすべきか改めて 社会が問い直す。そんな時空を超えた好循環が生まれる ことを、同じ過去を調べる者として楽しみにしています。 (広報室 林 憲吾)