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瞬間と永遠の間を探る

アーティスト 市川江津子さん 溶解したガラスを筆のように操っ て描く「パイログラフィー」

2013 年 8 月 8 日、夕日に照らされたビーチ クラブのデッキには、アーティスト市川江津 子さんの実演パフォーマンスを見ようと、数 百人の観客が詰めかけていた。市川さんが手 にする、吹き竿と呼ばれるステンレス製のパ イプの先には、溶解炉から出たばかりの、高温 でとろとろになったガラスが巻き付けられ、 まさに融け落ちんとしている。しかし、市川 さんは焦る様子もなく、おもむろに大きな紙 の上に融けたガラスの部分をかざすと、まる で筆を扱うような動きで曲線を描いていく。 ガラスは紙の上に滑り落ち、曲線に従って炎 が走り、その瞬間に焦げ跡が残る。真っ白な 紙の上に次から次へと、細く、力強く、時には 幾筋にも重なって熱いガラスで優雅な線が描 かれていく。市川さんのシグネチャーシリー ズとして知られる、溶解ガラスによるパイロ グラフィーの作品だ。

ガラスとの出会い

子どもの頃から絵を描くのが好きで、中学 進学の時にはすでに作家になると決めていた 市川さんは、女子美の中学高校を経て東京造 形大学に進んだ。順調に作家への道を目指す かに見えたが、中断期が訪れる。大学3年の頃、 木の葉が風に揺れて太陽の光にきらきらと反 射する様子に打たれ、 「『自然はこんなに美し いものを創造できる。自分が作るものなど自 己満足に過ぎない』と思って、クリエイティブ アーティスト市川江津子さん、不動産会社代表菅沼愛子さん、 な部分に完全に鍵をかけてしまったんです」 デザイナー益山千恵さん、マーケティング会社社長赤堀祥子 卒業してデザイン会社に入ってからも作品 さんなど、シアトルを拠点において幅広く活躍する日本人女 は作らなかった。そういう状態が4、5年続き、 転機が訪れたのは 28 歳の時。それまで病気 性にインタビューしました。 知らずだった市川さんだが、会社の健康診断 取材 • 文:越宮照代、柏﨑まほ 協力:Story of My Life で白血球が異常に多いという結果が出た。再 写真:ブラウン真里亜、越宮照代 (「シアトルを拠点に活躍する日本人女性」10ページに続く)


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Ss 2013 10 10 by シアトル日本語情報誌『ソイソース』 - Issuu