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2023

HERB GARDEN FRAGRANCE BUTTERBUR B 2 A 2 A 8

香りが揃う野原のような庭 千葉県鴨川市にある 苗目の農場や里山を訪ねる

SHIROフレグランス ブランドの歴史と誕生秘話 上手な香りの使い方

生産者を訪ねる旅 ラワンぶきの生産地 北海道足寄町へ

分ほど移動した里山です。ここから井上さんのパー トナーの裕美さんも合流し、一緒に向かいます。里山の入口は、 軽自動車では登れないほどの急な坂なのに、軽自動車じゃない と通れないような細い道。井上さんは軽バンのアクセルを踏み 切り、エンジンが低く太い音を立てながらグイグイと進んでい きます。木々が頭上を覆い、昼間なのにちょっと薄暗いのです が、その分涼しくもあります。夏場には、ちょっとしたオアシ スです。 登りきった先に待っていたのは、広い空と高いシンボルツリ ー、骨組みだけの三角屋根の家。気温は一気に上がりますが、 風が気持ちよく吹き抜けます。遠くまでよく見渡せて、誰だって気持ちよくなってしまうような場所でした。「日本の里山って杉ばかり生えているんです。でもこの森は違 ったんですよ。果樹や在来種、広葉樹など、とても多様です。 四季によって景色もぜんぜん違う。だからこの場所を苗目の拠 点にしようと決めました」 とはいえ最初は、里山の入り口のような鬱蒼とした森だった

苗目には「栽培」「採取」「コミュニティ」の 3 つの柱があり ます。エディブルガーデンは栽培の場所。採取の場所となるの は、車で 10

井上さんは森の中に生えている植物も知り尽くしていて、そ の味や香りを説明してくれました。取材チームも、今まで一つ のかたまりのように見えていた森の解像度が、どんどん上がっ ていきます。一人ひとり違う人間が集まって街ができているよ うに、森だってさまざまな生き物の集合体なんですよね。「シンボルツリーを中心に、家族と住む空間を設計しました。 よくあるログハウスではなくて、デザインにこだわった大きな 三角屋根の家をセルフビルドしています。市販の角材や金物を 使うのは最低限にして、ほぼすべてを森から生まれた木材から つくってるんですよ。製材機じゃなくてチェーンソーで製材し たので、木の表面を残すことができています。めちゃくちゃ大変なんですが、その分とびきりかっこいいでしょう」 間伐を進めていくと、たくさんの丸太が伐り出されます。そ の数があまりにも多く、それならいっそ家を建ててしまおうと スタートしたのが、この自宅の建設でした。何かをつくるため に生まれた自然素材を使って、別の何かをつくる。つなげていけば、無駄なものを生みません。「とにかく無駄が嫌いなんです。捨てなきゃいけない無駄を生 まないためには、循環が大事」

そう。植物たちがよく育つように間伐して日光が入るように工 夫をし、今ではよく育つようになっています。ここに生えてい る植物の一部は、シロップ漬けなどに加工されて苗目の製品と して出荷されています。

ます。

井上さんのこの哲学は、

がこだわり続けてきたこと

本当にもったいないんですよ」

時間程なのに、なんだか南国にワープしたよう でした。人よりも動物の気配を感じながら、さらに ど車を走らせて、苗目の拠点が見えてきました。 動きやすくシュッとした服に庭仕事用のエプロンを羽織って

アクアラインを通って東京湾を飛び越える。さっきまで海の 服がまとわりつきます。狭い道路の両脇には、耕作が放棄され上や下を走っていたのに、気がついたらずいぶんと山間へ。千 荒れた畑や空き家が並び、道まで伸びた枝葉が車に当たる。渋

す。そっちは、ニンニク。ほら、こっちはめちゃくちゃ甘いで すよ。そこにあるのは生牡蠣、あっちはワサビみたいな味がし ハウスの中を歩きながら、次々とハーブやエディブルフラワ ーの名前と味や香りを教えてくれる井上さん。言われたとおり に、手にとって鼻に近づけると、豊かな香りが広がります。そ れを躊躇しながら口に入れると、見た目からは想像できない味がする。終始、驚き続けていました。 ナスタチウム、イエルバブエナ、ボリジ、ソサエティ・ガー 苗目のハーブは、とにかく香りと味が力強いのが特徴です。 ミシュランガイドで星を獲得するような一流のシェフたちから 食材として高い評価を得ていますし、自然素材を求めて世界各 地を回った今井も「こんなにたくましく育ち、強い香りと味を 持つハーブには出会ったことがない。日本一のハーブがここに

列ごとに整理整頓されている畑よりも、野原 のようなこの畑の方が美しいって思うんですよ」 無駄にしなければ 無駄にならない

野原のような畑と、在来種や広葉樹が茂る里山。人々が集うシェアファームと 彼らは驚くほど強い香りと味を持つハーブやレストランを持つ「苗目」。香りの特集となった今号でぜひ取材したいと、エディブルフラワーを生産しています。

循環して生まれるカルチャーが多様な人と

ランドプロデューサーの今井浩恵と 千葉県鴨川市に向かいました。

Photographs: KEITA SAWA Text: SHINTARO

KUZUHARA

SHIROブ

谷を出発して 1

生牡蠣、ニンニク、チョコミント葉県鴨川市を訪れたのは 5 月の終わり。すでに蒸し暑さで肌に

1 時間弱ほ

そくエディブルガーデンを案内してくれました。 ます」

いる男性が、タバコを咥えながら車に寄りかかっています。千 葉県鴨川市でハーブやエディブルフラワーを生産する「苗目」 の代表、井上隆太郎さんです。「どうも、どうも」と、ちょっ と恥ずかしそうに迎えてくれた井上さんに、取材チームもそれ ぞれ自己紹介。前日は年に

1 度の大きなイベントがあったそう 1 年で一番疲れてますよ(笑)」なんて言いつつも、さっ

種類以上あるそう。それぞれが 見た目も香りも味も、全然違います。ここにあるだけでもこん なに多様なんだから、世界中のあらゆる植物を集めたら、どん な味や香りだって表現できてしまうんじゃないでしょうか。ハ ーブという存在にこんなに自分が驚かされること自体に驚きながら、さらにエディブルガーデンを巡ります。 こっちのほうが美しいでしょ 井上さんは、無農薬・無化学肥料で、極力自然のままにハー ブや花を育てています。ビニールハウスの中に畑はありますが、 機械による温度や湿度の調整はしていません。うまく育たない ハーブがあったとしても、繰り返し同じ場所で同じ品種を育て 続けていれば、自然とたくましく枝葉を広げるようになると言 います。 「失敗なんてないんですよ。枯れてしまってもちゃんと根は張 うじゃないですか。一度枯れたくらいで植物は諦めたりしない。っているし、それは土の養分になるでしょ。自然の中だってそ ここでは、自然の世界と同じことが起きているだけなんです」 苗目のエディブルガーデンには、雑草も一緒に生えています。 それは手入れが行き届いていないということではありません。 ハーブやエディブルフラワーをよく観察し、日光が遮られてい たり、虫が伝ってきたりしたら、その雑草だけは抜くのです。「雑草が栄養を奪うってよく言いますけど、自然の森を想像し てみてください。さまざまな植物が一緒に生えているじゃないはある」と言います。 「雑草がなくて 1

リック、マロウ、コリアンダー、レモンバーム、コーンフラワ ー、カモミール……。エディブルガーデンを埋め尽くすさまざ まなハーブたちは常時

井上隆太郎

つながりがなさそうなカルチャーがつながっているのはデザイ

無農薬・無化学肥料のエディブルガーデンとヒップホップ。

「苗目」代表。千葉県鴨川市でハーブとエディブルフラワーの生産 を中心に、環境負荷のない農業に取り組む。2023 年 4 月にはコミ ュニティファーム内に「naeme farmers stand」をオープン。ハー ブや採取した植物を使った加工品、地域の無農薬農産物を扱う直売 所と、カフェ、食と農に特化したイベント行う場所もスタートした。

〝ジャンク感〞のあるラザニアですが、地 元産の小麦やチーズを使い、お皿に乗るものは、ほぼすべて鴨 川産。ここでしか食べられない特別なラザニアは、そのストー リーも含めて絶品でした。 ラザニアというメニューにハーブやエディブルフラワーを合 わせるのが苗目らしさなのでしょう。苗目を紹介する映像やウ ェブサイトはヒップホップカルチャーに根付いたデザインに統 一されています。〝丁寧さ〞や〝上品さ〞を連想させる無農薬、 無化学肥料、エディブルガーデン、里山といったキーワードと は、ちょっとギャップがあり、そのギャップが苗目のおもしろ さでもあると思うのです。

ガーデンや里山が生産の拠点なら、コミュニティを生み出すの がこの場所の役割。日本でもトップレベルのレストランのシェ フから、苗目ファンの家族連れ、観光客まで、さまざまな人々 が集まり、飲んだり食べたりしながら、人と人とのつながりを つくっています。 「ぜひハーブと一緒に食べてください」と出してもらったの はランチのラザニア。もちろん、苗目が育てたハーブやエディ ブルフラワーがお皿を彩ります。「添えられている」なんて表 現では足りないほどたくさんの自然の恵み。チーズがふんだん に使われ一般的には

井上裕美

隆太郎さんとともに「苗目」を立ち上げた。受注管理・収穫・出荷 梱包を中心に、6 棟のハウスで年間約 200 種類のハーブや野菜、エ ディブルフラワーを生産する農場での作業、加工品のアイデア、製 造を担当。

多様な要素が循環し生まれるもの 里山を下りて向かったのは、苗目の

3 つ目の拠点。シェアフ ァーム「 naeme share farm 」とレストランとイベントスペー ス、販売所である「 naeme farmers stand 」です。エディブル

https://naeme.farm/

きたからかもしれません。井上さんは元々、庭造りの仕事や、 花や植物を使って店舗やイベントのディスプレイを制作する仕 事をしていました。植物の魅力を最大限に活かしたデザインが いったそうです。

ができた取材チーム。なぜ近い考え方を持っているのか、それ は苗目の井上さんと SHIRO の今井が、同じような経験をして

なっていけると信じています。そろそろ始まる? 苗目と

SHIRO 建築しているのも、スキンケア・メイクアップの世界に留ま っているだけでは SHIRO が思い描く未来に到達できないから。 外へ、外へと広げていくことで、

の近しい哲学を知ること

りきた鴨川に移住したのは 2014 今井も 2 0 1 9

ンだけではありません。苗目のウェブサイトには、苗目に関 わる人たちを紹介している「

薬草園蒸留所」の代表として蒸留酒をつく や、ヒップホップなサインを描くアーティストの小林尚人さん、っているし、建築チームとして一級建築士の曽我部広和さん naeme farmers stand のコーヒーの焙煎やカフェ運営を担当す る向山岳さんなどさまざまな人が集い、苗目を支えています。 こうして多様な人・場所・機能が有機的につながり循環する ことで、人の輪はどんどん広がります。集まる人たちは新しい 刺激を受けて、それぞれの可能性がさらに広がる。すると不思 議と、昨日の延長とは違う、新しい明日が見えてくるのです。 りません。自分たちの未来を希望に変えていく手段なんです。「循環」とは単純にエコやサステナビリティの話だけではあ SHIRO SHIRO PAPER 」を発行したのも、「みんなの工場」 をオープンしたのも、新しい宿泊施設「 MAISON

さまざまな人が登場しています。苗目の取締役である江口宏志 さんは「 mitosaya

SHIRO のストーリー 取材をして改めて、苗目と

SHIRO

」というページがあり、

の原点に戻ることができたのです。自然に 根差したものづくりをして、生まれた利益は地球や社会に還元 していく。向かうべき場所を思い出させてくれたひとりが、井 上さんでした。まだ出会って 1 年ほどしか経っていないのに不 を見ているからかもしれません。 か?」 をつくっていなかった SHIRO 。しかし、今回の取材をきっか に実現させちゃうのも、 2

年のリブランディング以前から、世界のト ップブランドと肩を並べるべく、一心不乱に駆け回ってきまし た。しかし、コロナ禍をきっかけに「このままでいいのか?」 と立ち止まって考えたのです。そこで今井は経営を現社長の福 永へ引き継ぎ、これまで行ったことのない場所に行き、会ったことのない人に会いに行くようになりました。 すると、 SHIRO

OURTEAM

Letter from Sunagawa

みんなの工場は、北海道砂川市にあるSHIRO の製品を製造する工場にショップ、カフェ、キッズスペースとラ ウンジなどを併設した、人と環境に配慮した循環型の施設です。 SHIRO のものづくりをすべて見ていただける よう、壁ではなくガラスで仕切り、工場を開きました。

ショップ内のブレンダーラボでは、自分だけのオリジナルの香りを実際の工場と同じ製法でつくれる、ものづ くり体験が楽しめます。ピンネシリの山々を望みながらゆっくりと過ごせるカフェやラウンジ、子どもたちの 自由な遊び場や、小さな図書館も完備しているこの場所が世界中のみんなの居場所になることを願っています。 INFORMATION 〈住所〉 北海道砂川市豊沼町

ご注文いただいてから 店内の薪窯で焼きあげます

SHIRO CAFEメニューは札幌のイタリアンレ ストラン「TAKAO」の高尾僚将シェフがプロ デュース。砂川本店では薪窯で焼くピッツァ が味わえます。季節の野菜をたっぷりのせた ピッツァ ヴェルドゥーラ(1,320円)が人気。

空中を歩き回れる ジャングルネット

フルーツの花束を 抱えているような気分

砂川本店限定のフレグランス「フルーツブー ケ」。北海道・空知で出会ったハスカップや りんご、ぶどうを中心に、カシスやオレンジ、 アプリコットなどのフルーツをたっぷり詰め 込み、やわらかなフローラルでまとめました。

SHIRO PAPER みんなの工場号

あなただけのフレグランス ブレンダーラボ

「ブレンダーラボ」で、お好きな香りをブレン ドして、世界にひとつだけの「マイフレグラ ンス」をつくってみませんか。ご予約不要。 15分ほどでおつくりいただけます。休日は混 雑しますので、時間に余裕をもって。

ショップ 10:00–19:00(ブレンダーラボ最終受付 18:30 ) カフェ 11:00–19:00 (ラストオーダー 18:30 ) キッズスペースの天井部分に張ったジャン グルネットは、子どもはもちろん大人もOK。 ぜひ一度のぼってみてください。ご家族でも、 子どもたちだけで遊びに来ても、それぞれの 時間を楽しくお過ごしいただけます。

〈営業時間 〉 10:00–19:00 (不定休)

工場 10:00–17:30 ( 日・祝日はお休み)

SHIRO がみんなの工場に込めたアイデアや 想いをまとめた、 SHIRO PAPER の特別号を 配布しています。ぜひペーパーを片手に、施 設内・敷地内を歩いてみてくださいね。ぐっ と楽しさが増しますよ。

みんなの工場は、大人の、子どもの、そして 植物や動物の居場所です。どうぞ愛犬も連れ てお入りください。動物が大好きな人もいれ ば、苦手な人もいますから、お互いの気持ち を考えながら。心地よい場所を目指して。

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