PAPER
1 Issue March 2023
CRAFTSMANSHIP B 2 A 2 A 4
ARCHITECTS SAKE KASU & KOMENUKA
建築家、アリイイリエ・ アーキテクツに聞く みんなの工場ってどんなところ?
全国各地の生産者を訪ねる旅 酒かすと米ぬかの生産地へ
人気の酒かすシリーズに 米ぬかを加え 酒かす米ぬかシリーズが誕生
設計において大切にしてきた思想を語り合いました。
みんなの工場の場合、確定していたのは「オープンの 時期」と「みんなで工場をつくるんだ」ということく 与えられた時間はわずか
ふたりで話すことにしました。
ほどイメージや方向性が確立されているブラ ンドのプロジェクトの場合、建築家に声をかけるときには、い ろいろなことが決まっています。「こういう場所に、こういう って、こんなふうにお客さんに楽しんでいただきたい。だから、空間をつくる。庭はこんなふうになっていて、こんなお店が入こういう建物を建ててください」という具合に。 有井:
今井さんと初めてお会いした日、「絶対、私たちは選ば れないね」って有井と話しながら帰りました。だって 本当に噛み合わないんです。「何か質問はありますか?」 と聞かれたのですが、私たちには質問しかありません でした(笑)。質問がありすぎて、何から聞いたらいいかわからないというか……。 なぜ、噛み合わなかったのか。それはやはり普通じゃないから でした。
というブランドや工事の規模を考えると、実績 と信頼を積み重ねたベテランの建築家に依頼するのが「普通」
アリイイリエのお二人は、声をかけられたことに驚いたと言い ます。 SHIRO
週間でした。普通は、少な
ました。 有井:
大切な場所です。従来の工場と比べて、土地の面積も規模も大きい。いろいろな人に声をかけ、
だからです。 入江:
何人かの建築家にこちらからご連絡し、「みんなのすな がわプロジェクト」の概要をご説明したのです。実は その中で、一番話が噛み合わなかったのが、アリイイ リエでした(笑)。
が大切にしている「自 然に合わせるものづくり」を理解してくれそうな建築家のみな さんをご紹介いただきました。その中の一組がアリイイリエの お二人でした。今井:
?「普通」と違う…
が創業の地・砂川につくるとっても
みんなの工場は、 SHIRO
工場で働く人、砂川に住む人、 SHIRO
お二人の提案には、こう書かれていました。
建築家は「空気」をつくる
つくるプロセスをつくる 2 工場を開くと学校になる 3 ここで働くことが誇りになる 4 土地を耕す 5 土地のリスクと向き合う 入江: 私と有井にとって師匠である建築家の小嶋一浩さんは 「建築家は、壁や屋根をつくっているんじゃない。そ こに生まれる〝空気〞をつくっているんだ」とよくお っしゃっていました。その空気が人に伝わり、そこで の体験をつくる。建築家が自由で軽やかな空気をつく れば、そこで過ごす人もきっとワクワク楽しくなるし、 逆に重苦しい空気をつくってしまったら、人が寄り付 かなくなってしまいます。私たちが建築家として選ば れなかったとしても、今井さんの心に響けばそれでい いと思いました。
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とにかく後悔や言い残しはしたくないと思いました。 常識的に考えて、私たちが選ばれるはずがない。それ くらい、このプロジェクトの規模と、私たちの実績 の間には大きなギャップがありました。でも、どうせ 他の人が選ばれるんだから、せめて言いたいことを言 おう、と。とても素敵な空間になる可能性があるのに、 ただただ消費を煽るだけの場所になってしまったら、 あまりにもったいない。そういう想いを抱えたまま終 わりたくなかったんです。
のファンのみなさんが、
噛み合わなかった初対面から
ゼンテーションを受けた今井はとても感動したと言います。 今井: とにかく真剣で、本質的でした。それにとても正直で もありました。だって、最初のプレゼンで「この土地 には◯◯のリスクがあり、△△の対策が必要だからコ ストがあがります」って言うんですよ(笑)。受注した かったら、最初に面倒なことは言わないでしょう?
コンセプトやこの空間を流れる空気を資料としてまと めました。
1 週間後、資料を受け取り、プレ
SHIRO
工場設計に至るまでさまざまな建築に携わっています。
距離を縮めた先にある
ブランドプロデューサ
キッズスペースなどを併設し、 人と環境に配慮した循環型の施設です。設計を担当したのは
ファウンダーの今井浩恵
というテーマを掲げ、 一戸建て住宅や公共建築物
有井淳生さんと入江可子さん。 〝 健やかな空気をつくる
北海道砂川市にオープンします。 工場やショップ
Photographs: KEI FURUSE / SHUNSUKE TAKAMA (B5) Text: SHINTARO KUZUHARA
新しい拠点「みんなの工場
都市空間だけでなく
を交えて
表紙の写真がまさしく、その吸音材です。
旧ユニフォームをリサイクルして、オリジナルの資材 をつくることができました。普段は自分たちが関わる ことがない繊維産業の方々と対話し、開発・製造の工 程を併走できたことで、自分たちの可能性も広げるこ
設計において特に気をつけたのは、工場とそれ以外を いかにつなげるかということでした。私たちは今「つ くる人」と「つかう人」が遠く離れた生活を送ってい ます。これってなんだか虚しいと思いませんか? 誰かが心を込めてつくったものも、売場で手に取った時には、 そのこだわりや想いはなかなか伝わってきません。だから雑に 扱ったり、簡単に使い捨ててしまったりする。次々と新しいものを購入し、持っていたものは大切にされない。
こうしてみんなのすながわプロジェクトを担当する建築家は決 まりましたが、工場のオープン日は決まっていて、残された期 間は少ない。次々と仕様を決めていかなくてはなりません。最 終的にアリイイリエのお二人は、今回の建築のコンセプトを3 つにまとめました。 ものづくりへのリスペクトと、空気をつくる建築。ふたりが大切にしてきたことが上手にまとまった基本方針です。
1. 工場を開く
工場の一部ではなく、製造ライン全体を見学できるよう にする。裏のない製造工程へのSHIROの意思と誇りを、 建築の在り方で示す。それは、工場+付帯施設という構 図ではなく、工場自体を開くということ。ものづくりの プロセスを開放することで、その場を一企業の製造所か ら、地域の学びの場へ変容させます。
入江:
自分たちもつくってみる
ここで働くことが誇りになる 3 素地としての建築
SHIRO では様々なスタッフが働いています。そのなかでもっ とも重要な仕事のひとつが、研究開発チームと、製造チームで す。彼らの丁寧な仕事があるからこそ、製品をつかう人に届け ることができる。 有井: 「つくること」を大切にしている
の店舗で使われていた とができました。
SHIRO のみなさんと 仕事をするうちに、自分たちのやり方にも疑問が湧い てきました。例えば、建築資材って、多くのものはカ タログから選ぶんです。そうすると、どうしてもどこ かで見たことがある普通の資材しか使えない。それで は味気ないじゃないですか。だから、ものづくりの人 と何か一緒に特製の資材を開発しようと思ったんです。 は、天井に貼る吸音材。
こういう状況を変えるには、つくる人は自信を持って 自分たちのこだわりや想いを発信することが大切だし、 つかう人は意識を変えることが必要だと思うんです。 せっかくものづくりの拠点である工場をつくるんだか ら、つくる人とつかう人の距離を、物理的にも心理的 にも近づけたいと思いました。そこで、来館者がいる スペースと研究開発室や工場との間の仕切りをガラス にし、まるで同じ空間にいるかのように感じられる設 計にしたんです。
SHIRO
普通は、あらゆる仕事が縦割りになっていて「コンセプトを考 える人はこの人、規模や面積配分を考える人はこの人、広報を 考える人はこの人」と、役割が細かく分業されてしまいます。 そのほうが効率は上がるけれど、それで良いんだっけ?という 問いから、このプロジェクトは始まっています。だからこそ 「〝みんな〞のすながわプロジェクト」という名前がつけられて いるんです。
「つくる人」と「つかう人」をつなげるだけでなく、そ の先をここで実現したいと思っています。それは、み んなの「つくりたい!」を刺激すること。この場所に 来ることで、さまざまなアイデアが生まれ、なにかを 生み出したいと思う気持ちを育てる。実際に「みんな でつくる」という過程をご一緒した多くの人が、それ ぞれの場所で新しい何かを生み出しています。みんな が「みんなでつくる」ことを実践していったらきっと、 人に優しくてサステナブルな「新しいつくりかた」が 見えてくると思うんです。 1 工場を開く 2
2. ここで働くことが誇りになる 自然と切り離された工場で働くのではなく、生産を担う 人たちの健康や福祉、砂川市の将来を視野に入れて計画 する。働く人が誇りを感じ、地域から愛される場所を目 指します。単純に自然エネルギーを利用するといったこ とではなく、そこに関わる人たちが自律的に営みを支え あう、本当の意味での持続可能な社会を実現できると考 えます。
みんなの「つくりたい」を刺激する場所に研究を重ね、ものをつくる。それを届けた先で、誰かがつかって喜ぶ。その喜びが人と人とをつなげていく。
やって少しずつ成長してきました。 入江: 本当は建築家って、そういう役割なんです。建築家に なるための教育の中で、図面を書く・構造計算をする といった建物をつくるための実務的な技術を教わる時 間は決して多くありません。たくさんの時間を使うの は「どんな空間があればもっと街が良くなるのか」や 「どんな空間をつくれば、そこに集まる人と人の関係が 良くなるのか」といったことを考えること。建築の役 割と果たせる価値について真剣に考えている人たちな んです。でも、社会に出るとちょっと変わってきてし まう。普通は、あらゆることが決まった状態で建築家 に声がかかりますから。 みんなのすながわプロジェク トは、私たちがコンセプトを考える「余白」があった。とても良いチャンスをいただきました。
アリイイリエ・アーキテクツ
主な作品に岩手県盛岡市のロースターカフェ「Nagasawa COFFEE」、障害のあるアーティストの作品を発信するギャラリー 「HERALBONY GALLERY」、倉庫とオフィスが融合した「清光社 埼 玉支店」など。清光社 埼玉支店で、JID AWARD 2020大賞、第47 回東京建築賞 一般一類部門最優秀賞、第24回木材活用コンクール 林野庁長官賞など受賞多数。
有井 淳生(アリイアツオ) 1984 年神奈川県生まれ。東京大学大学院在学中にオランダ、ロッ テルダムのOMAにてインターン。大学院修了後、シーラカンスア ンドアソシエイツを経て2015年アリイイリエアーキテクツ設立。
入江 可子(イリエカコ) 1984 年東京都生まれ。東京藝術大学大学院在学中にイタリア、ト リノのPolitecnico di Torinoに留学。大学院修了後、シーラカンス アンドアソシエイツを経て2017年よりアリイイリエアーキテクツ、 パートナー。
みんなのすながわ プロジェクト https://shiro-sunagawa.jp/ shiro_sunagawa
3. 素地としての建築 隣接するショップやカフェ、畑との間を隔てる強固な箱 をつくるのではなく、品質管理に必要な環境を確保した 上で、可能な限り建築としての存在感を消し、自然光や 公園への景観を重要視した、健康的な環境を目指します。 また、中身を積極的に見せていくこの場所に豪奢な建築
入江:
今井:
「みんなの工場」 2023年4 月 28 日㈮オープン
創業の地・北海道砂川市にオープンする新工場の名前は 「みんなの工場」といいます。
子どもも、大人も、働く人も、くつろぐ人も、動物や植物にとっても、 みんなの居場所になることを願って名付けました。
工場を開く
最初に決めたこと。それは工場を開くことでした。
お店やカフェのすぐ隣、ガラスを挟んだ向こう側に 私たちが働く工場があります。
みなさんが手にとっている製品がつくられる様子をご覧ください。
みんなで、みんなを考える 自分たちが使いたいものをつくり、 たくさんの人に届けたいと願い、
日本だけでなく世界にまで 私たちの製品をお届けできるようになりました。
少数精鋭で走り抜けた日々、 コロナ禍で立ち止まってふと気が付きました。
視野は狭まり、思考がすっかり凝り固まっていたのです。 そこで「みんなの工場」は、 みんなと話しながらつくることに挑戦しました。
そしてこれからみんなで育てていきたいと考えています。
駐車場 Parking
ブレンダーラボであなただけのフレグランスをつくり、 ピンネシリ岳を眺めながらカフェでコーヒーをお楽しみください。 こどもたちの遊び場や、小さな図書館もあります。
つくることからすべてが始まる── 。 ぜひ砂川に遊びにてきてください。
PACKAGING ROOM SHOP KIDS SPACE
ARCHIVES FACTORY BOOK SPACE
INGREDIENT PROCESSING ROOM FILLING ROOM
R&D ROOM
みんなの工場 住 所:北海道砂川市豊沼町 54-1 営業時間:10:00-19:00