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SHIRO-Paper-Issue-Earth-3-202312

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PAPER

Issue

November 2023

3

EARTH

FORESTRY

SHIROの未来 AtoZ HOLY BASIL B 2 A 2 A 8

はじまりの森で語り合った

絶望と希望

SHIRO が向かう未来

私たちが描く未来を 一緒に旅する 26のキーワード

生産者を訪ねる旅 ホーリーバジルの生産地 広島県東広島市へ

です。どんな国で育った人にも、北海道の森が育んだ素材のお 出会って自分のスタイルがはっきりと決まりました」本がずらりと並んでいます。はじめて高尾さんの店を訪れた今 じ取りました。高尾さんは森が生み出す素材から料理をつくり、井は、自分が化粧品づくりで目指していることと同じ匂いを感 は畑や海が生み出す素材から化粧品をつくる。

ランドプロデューサー今井浩恵が、 一緒に森に入ったのは「森を料理する」札幌の街の外縁にある森を訪れた。オーナーシェフと、自然の都合に合わせた社会のあり方についていま今井が最も力を入れている、フォレスター、森を守る人。「森のしたいようにさせる」 森を歩きながら話した。

森の新しい姿とみんなで考える

SHIROブ

るような、街の「外縁」にあります。

をして、深呼吸。冷たくしっとりした空気が肺を満たし、身体 の中の重たい何かが、吐く息と一緒に外へと逃げていく。何度 か繰り返すと、視界も思考もくっきりして、すっかり軽くなっ

高等学校の学校林です。

尾僚将さんは、「森を料理する」「森に付加価値を」をテー マに掲げ、ミシュラン一つ星を獲得したイタリアンレストラン 「 TAKAO 」のオーナーシェフ。

のブランドプロデューサーの今井浩恵の

やみんなの工場 の隣に来年秋オープン予定のレストランのプロデュースを手掛 けています。もうひとりは北海道で持続可能な森づくりを実践してきたフォレスター(森林を守る人)の

森にあるのは木だけじゃない みんなでつくる森、みんなでつくる未来。そのために

SHIRO

こは札幌の中心部から車で

分も走ればアウトレットモールがあ

編集部は 今回、この森を 3 人の語り手と共に訪れました。

た気がする。 こ

ができること││ 。 早 起きして、たくさんの木に囲まれた道を歩く。大きく伸び

10

30 分ほどの場所にある、札幌南

陣 じんのうち 内 雄さん。そして、

SHIRO CAFE

SHIRO PAPER

「森」という字のごとく、たくさんの木々を思い浮かべる方が 多いかもしれません。では、もう少し想像力を働かせて、森の 中にいる自分を思い描いてみてください。森にあるのは木だけ ではありません。たくさんの植物が生えています。美しい花が 咲き、岩や倒れた木には苔が生えます。山菜やキノコ、ベリー など美味しい食材も採れます。植物だけではありません。昆虫 が歩き回り、土の中では微生物がうごめいています。その虫を 探して鳥が集まります。猪や鹿、熊などの動物も暮らしています。森ではさまざまな生き物が共存しているのです。 森 を歩くといろいろな音が聞こえてきます。風が葉を揺ら し、鳥がさえずり、動物が枯れ葉を踏みしめる。いろいろな 香りもします。花だけでなく、土や枝や葉っぱにも香りがあ ります。こんなふうに、森はたくさんの要素でできていて、 複雑な活動が営まれています。 「森を料理する」こととの出会い 今井が森に入ることになったきっかけは、高尾僚将シェフと の出会いでした。高尾さんは北海道旭川市出身。海外で働くこ とをイメージしてシェフを目指したという高尾さん。専門学校 を卒業後、フランスや中国で働いた経験を通して、身近すぎて あまり着目していなかった地元北海道産の食材の魅力に気が付 たり発酵させたりしながら新しい風味や香りを探求しています。きます。自ら森を歩き、さまざまな植物を採取して、乾燥させ 「森に入るようになったのは本当に偶然です。仕事や人の巡り 合わせで北海道の森を巡るようになりました。はじめは山菜を 採っていたのですが、次第に物足りなくなって、より幅広い素いしさは伝わります。これだ!

と思いましたね。森の素材に 札 幌にある高尾さんのレストラン「

TAKAO 」には、森の標 SHIRO

と聞いて皆さんは何を思い浮かべますか?

SHIRO

効率よく収穫したい。森を区画に区切り、スケジュールを決め て、区画の端から端へ大型重機を使ってまるっと伐採していき 的に育てて収穫できるように、単一の樹種を、等間隔に植樹すます。山の一部がナイフでくり抜かれたように木がない空白を るので、同じ樹種ばかりになるだけでなく、同じ樹齢の木が育

す。立派に育っている木を残し、周囲の細い木を間伐するので、 木材市場で取引される太さに満たない細い木が多くなります。 す。でも、私たちが使う木材なんてごくわずか。では、どのよ うに自然に合わせた森づくりを持続させればよいのでしょう。

のプロデュースを 高尾さんに依頼し、一緒に生産者さんを巡り、食材を探し、新しいメニューをつくりあげました。

「当時私は森に入ったことがなかったのです。出会ったことの ない素材が森の中にたくさんありそうだ。じゃあ、森に行って みよう、と」 高 尾さんとの出会いをきっかけに森に足を踏み入れた今井は、 森の楽しさ、可能性の大きさに魅了され、日本各地、そしてヨ ーロッパの森を訪れています。

るのでしょうか。現代日本において、多くの森は「畑」のよう に管理されています。農家は畑で農作物を育て、販売すること で生計を立てる。同じように林業家は森で木を育て、木材を販見たことはありませんか?

在行われている森づくりには、いったいどんな問題点があ

森の恵みを活かした新しいレストランをオープン予定。急速に 森に向かって舵を切る今井に、森と関わることで実現したいことについて尋ねると、こんな返事が返ってきました。「正しいことがしたい。正しいことを広めたい。今行われてい る森づくりは、間違っていることが多いと思う。いろいろな人 に森の話を聞いたけど、やっぱり陣内さんが言っていること、 やってることが正しいと思う」 陣 内さんは高校時代に読んだ新聞記事で、地球温暖化の深刻 さに気付きました。当時はバブルの真っ只中でしたが、高校生 だった陣内さんは、その記事に書かれた内容を確かに受け止め ました。その後、建築や農業、林業などさまざまな業種で経験 を重ねていきますが、根っこにはいつも地球環境への危機感が ありました。中でも、今の陣内さんの価値観のベースとなった のは、とある森づくりの達人。彼の持続可能な森林管理に大い に影響され、今の陣内さんの森づくりが形づくられていきまし 現

伐した後には、苗を植えて 50 年後の収穫に備えます。効率

このように森の中の一定の区画の 木をすべて伐採することを「 皆 伐 」と言います。 皆

学校林の木が使われていたり、森を通じて出会った人たちがい なければ実現できなかったアイデアがふんだんに盛り込まれ ています。そして 2 0 2 4 年秋には、「みんなの工場」の隣に、

の出会いによって、「みんなの工場」の外壁材に北海道の 間伐材が使われたり、北海道長沼町に建設中の一棟貸しの宿泊 施設「 MAISON SHIRO 」では、まさに今歩いている札幌南高

付きます。そして出会ったのが、北海道で持続可能な森林管理 を実践する陣内雄さん、そして彼の仲間の木こりたちです。 そ

人間の都合に合わせた森づくり 今井が森に通うようになり、森と

SHIRO の距離はぐっと近

では陣内さんが実践している森づくりとはどのようなものな のでしょう。大切なことは「森を観察し、森が向かいたい方向 を見極めて、人間がサポートする」こと。森は皆伐されること を望んではいません。森の意思に任せつつ、森をよく観察し、 木が密集しすぎたところは適切に間伐することで太陽の光を入 れて木の育成をサポートします。すると針葉樹と広葉樹が混在 し、落ちた種が自然に芽を出して育ち、多品種・多世代の森に なっていきます。「森は太古の姿に戻ろうとする」と陣内さん は言います。 「森がしたいようにさせてあげるんです。方角だったり、傾斜 だったり、それぞれの木が生きやすい場所で生き残る。人間が 自然をコントロールすることなんてできないですから」 森 を長いこと見守ってきた陣内さんはあっけらかんと、人間 ができることなんてたかが知れていると言います。この「自然の都合に合わせる」考え方は、

ではそんな細い木材を工夫して使用していま

と同じです。自然素材 を使った生産量に合わせて製品をつくるから、たくさんはつく れません。たくさん売れるからと言って生産者さんや、畑や 森の負担になるような生産量を求めたりはしません。陣内さ んの森林管理の方法も同様で、人間の都合に合わせて森の木 MAISON SHIRO

つ森ができあがります。陣内さんは、単品種・単世代の森のさ まざまな問題を見てきました。森の中で病気が流行ればあっと いう間にたくさんの木に伝染してしまうし、大雨や強風などの 自然災害にも弱い。人間の都合に合わせてつくられた森は、実 のところ誰のためにもならない森になってしまうのです。自然の都合に合わせた森づくり

SHIRO

SHIRO
CAFE

高尾僚将  Tomoyuki Takao 1974年北海道旭川市生まれ。料理学校を卒業後、フランスの料理 専門学校に進学。ロワール地方のレストランで修業を重ね帰国後、 2009年に独立。2015年「TAKAO」をオープンする。2016年、北 海道イタリアン史上初のミシュラン一つ星を獲得。道内産の素材を ふんだんに使い、“北海道の家”をイメージした料理と空間を提供 している。2021年にゴ・エ・ミヨ「明日のグランシェフ賞」受賞。

はいえ、いきなり「森に関わる」なんてイメージできない

「みんな」が関わることで広がる 少し見方を変えてみましょう。森を歩いてよく観察すると、 森の収穫物は木だけではないことに気が付きます。地面からキ ノコが育っていたり、木の実が落ちている。葉はお茶やポプリ になる。高尾さんや

はつくっていきます。農業でも漁業でも、製 品を通じてたくさんの人との接点をつくってきました。次に

が取り組むのは森です。

がみんなの工場で目指したように、一人ひとりの 関わる領域を増やし、それぞれがやりたいこと・できることを 持ち寄って、ひとりでは実現できないことが可能になるはずで す。社会だって同じです。もっと一人ひとりができることを積 極的に持ち寄れば、今までできなかったことができるかもしれ ない。みんなが関わる森づくりは「森を守る」という話にとどまらず、私たちの生き方の話なのかもしれません。

のお客様が森に関わったり、森を楽しめる機会

にとっては、木以外にもたくさん の「素材」があり、それは立派な森の収穫物です。 今 まで、森に関わるのは林業家だけでした。しかし、料理家 やものづくりをしている人が関われば、森のいろんな要素を活 用できるようになります。皆伐しなくても林業家が生計を立て られるようになるかもしれません。いろいろな人が森に関われ ば、関わった人の分だけ森の可能性は広がります。そうするこ とで、自然の都合に合わせた森づくりが持続可能になってい

陣内雄  Takeshi Jinnouchi

1966年北海道札幌生まれ。東京芸術大学を卒業後、設計事務所 に勤務。1993年下川町森林組合で管理員として働き、その後音 楽活動を行い、自主制作CDを発売。2000年、間伐材の葉を使っ た新規事業を立ち上げる。2006年、旭川でNPO法人もりねっと 北海道を設立し代表を務め、森を活かす・人をつなぐ林業に従事。 2015年からフリーで林業や森の空間づくりを行っている。

はじまりの森、新しい命

が生きているうちに結果が見られるかわからないくらい。そし いです。 1 0 0

年先を考えながら今何をやるか決めなければ 収穫物の変化……。正直なところ、 10

が、木が大きく育つには 50 年以上の長い時間が必要です。自分

森が難しいのは時間がかかること。トマトは 1 年で育ちます

年先の未来でさえ、全く 予想ができません。 絶 陣内さんが立ち止まり、斜面の下を見ながら言いました。「ここ、気持ちいいでしょう」 立

で使用しています。そこには優しい光 がたっぷりと土まで届いていました。地面を覆っているのは、 20〜 30 センチほどの〝木の子ども〞たち。もともと植樹された をはじめていきましょう。

ち止まったのは昨年秋に間伐が行われたところ。その間伐 材は、 MAISON SHIRO

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